米国シンシナティ大学のジェイソン?サイモンズ准教授(スポーツマーケティング)が大阪体育大学に1カ月間滞在し、日本のプロスポーツビジネスについて調査?研究をしました。日米のスポーツビジネスの違いなどについて、親交が深いスポーツ科学部スポーツマネジメントコースの徳山友教授と対談しました。

ジェイソン?サイモンズ准教授と徳山友教授
サイモンズ准教授はネバダ大学を卒業。ルイビル大学でスポーツマネジメントの博士号(Ph.D.)を取得し、2014年からシンシナティ大学の准教授。スポーツマネジメントコースのコース主任を務めています。
1カ月のサバティカル(研究休暇)として、日本のプロスポーツを研究するため、4月から大阪体育大学に滞在しました。甲子園球場での阪神タイガース、京セラドームでのオリックスバファローズの試合や、Jリーグ2試合、プロバスケットボールの大阪エベッサ、花園ラグビー場でのラグビー?リーグワン、大相撲の枚方巡業などを精力的に視察しました。また、大学ではスポーツマネジメント実践論で学生に講義し、教職員を招いた座談会では、約200人のフルタイム職員で運営されるシンシナティ大学スポーツ局の業務などについて説明しました。
徳山教授とはルイビル大学博士課程でともに学びました。指導教員も同じで研究に関して議論したことも多く、サイモンズ准教授が博士論文に関して、民間企業での勤務経験を有する徳山教授に助言を求めたこともあったといいます。

スポーツマネジメントコース3年生60名が受講したスポーツマネジメント実践論の授業で、米国のスポーツ産業におけるキャリア形成について講義するサイモンズ准教授
対談では、日米のスポーツビジネスの違いやスポーツマネジメントの教育?研究体制など活発な意見が交わされました。
徳山:サイモンズ先生のご専門は。
サイモンズ:徳山教授とほぼ同じ領域です。スポーツマーケティングやスポーツガバナンス、大学スポーツマネジメントなどの授業を担当し、スポーツファンのセグメンテーション、最近は家族としてのファン行動に着目した研究に取り組んでいます。家族として一括りにするのではなく、子どもの人数や性別、年齢で特性は変わってくるのではないか。家族で一番年下の子どもの年齢次第で、観戦のモチベーションやファミリーとしての楽しみ方が大きく異なってくるのではないかと考えています。
徳山:サイモンズ先生が「家族を一括りにしたセグメントでは効果的?効率的なマーケティングが実施できないのでは」という問いを、スポーツチームのマーケティング担当者との意見交換で得て、研究のデザインに取り掛かりました。家族構成などを細かく分類したマーケティング研究は限定的でした。確かに、こどもの有無や子供の性別だけは不十分で、一番下のこどもの年齢や小学生以下の子供の人数等、考慮すべきことは存在し、「家族観戦」という変数だけでは説明できないので、サイモンズ先生は面白い研究をされているという認識です。日本の家族観戦ではどういった結果がでるか楽しみです。

日米のスポーツビジネスの違いなどについて意見をかわすサイモンズ准教授と徳山教授
徳山:アメリカのスポーツ産業の規模が日本と比較にならないほど大きい理由は何ですか。
サイモンズ:スポーツ文化が生活に溶け込んでいることが大きな要因だと思います。良いスポーツサービスには、費用対効果の視点から相応の費用がかかるのも当たり前です。子供スポーツもそうですし、レクリエーションスポーツもそうです。日本のスポーツ文化は世界的にもハイレベルかと思いますが、ビジネスとしてのスポーツは、会社が球団を所有しているためチームやリーグの価値を高めることがファーストミッションであるという意識が十分ではなく、道半ばという印象を受けます。また、アメリカのスポーツ産業を支える人材が豊富に大学より輩出されるシステムも重要な機能と考えています。
徳山:スポーツ庁による第3期スポーツ基本計画では「スポーツの成長産業化」を掲げており、今後さらにスポーツにビジネス要素が入ってくることが容易に想定できます。産業としてのスポーツが成長の軌道に乗れるかどうか、2つのキーポイントがあると思います。一つは、スポーツ消費者のマインドチェンジ。「質の高いスポーツサービスへはお金を出す」というアメリカのような価値が根付くか。もう一つは、質の高いスポーツサービスをマネジメントできる高い資質を持った人材が十分いるかです。これらが担保できれば、日本のスポーツ産業はまだまだ成長するとみています。

教職員15名との座談会で、神﨑浩学長(右端)や梅林薫スポーツ局長へシンシナティ大学スポーツ局の体制などについて説明するサイモンズ准教授
徳山:アメリカの大学でスポーツマネジメントを学べる大学はどれくらいありますか。
サイモンズ:全米で約400の大学が、スポーツマネジメント専攻プログラムを提供しています。修士課程も230の大学院がプログラムを提供しています。主専攻に加えてビジネス学部の学生が、副専攻でスポーツマネジメントを選択する例も少なくありません。シンシナティ大学のスポーツマネジメントプログラムには、学部生420名、大学院生115名が在籍しています。11名のスポーツマネジメント教員で質の高い教育を提供しています。多くの学生が様々なスポーツ分野に就職し、キャリアを積む中でどんどん能力をつけ、より高いポジションへのキャリアアップを目指していきます。スポーツマネジメント?マーケティング能力をさらに高めるため、修士課程に戻ってくる学生も多くいます。これらの学生がスポーツ産業の成長を支えています。
徳山:「卵が先か、鶏が先か」の議論は不毛ですが、事実として、アメリカにおいてはスポーツに関連する仕事がたくさんあることは羨ましい限りです。日本においてはスポーツマネジメントに興味を持ち一生懸命学んだ学生が、スポーツ業界のポジションが少ないため同分野への就職がかなわず、スポーツ以外の民間企業へ就職するケースが多い状況です。能力の高い学生も多いので、本当にもったいないという思いをいつも持ちます。また、スポーツ業界でも終身雇用制度がいまだに根強いため、人材の流動が非常に少ないとも感じています。本学のスポーツマネジメントコース所属の学部生は130名程度で、6名の教員で教育を提供しています。

授業終了後に学生、スポーツマネジメントコースの教員(後方)のみんなで シンシナティ大学の「Cポーズ」
サイモンズ:確かにスポーツ業界においてポジションの絶対数が少ないこと、また、人材の流動が少ないことは、スポーツマネジメントを学ぶモチベーションにかかわることですね。勝負は、業界が成長した際に能力の高い人材が十分にいるか、また、継続的な成長のために大学や大学院がスポーツマネジメント?マーケティングプログラムを通して能力の高い人材を業界へ輩出できるかですね。大阪体育大学のスポーツマネジメントプログラムは素晴らしい教員陣?カリキュラムだと思いました。藤本淳也教授(スポーツマーケティング論等)と徳山友教授(スポーツビジネス論等)はビジネス視点の授業を、冨山浩三教授(スポーツ地域創生論等)はスポーツ政策視点の授業を、中山健教授(スポーツ社会学等)はスポーツの社会的側面に焦点をあてる授業を、伊原久美子教授(スポーツプログラムマネジメント等)と德田真彦講師(アウトドアスポーツ論等)はアウトドアスポーツの活用によるビジネス創生に着目した授業をそれぞれ担当しています。また、海外研修も科目設定されており、多角的にスポーツマネジメントを学ぶことができる非常にバランスが取れたカリキュラムだと思いました。アメリカでスポーツマネジメント分野の英文の論文を検索すると、著者として日本の研究者の名は決して多くないのですが、大体大のスポーツマネジメントコースの先生方の名前は知っていました。論文を読んだことのある先生が大体大に固まっているのはすごいことです。産業の発展に人材は不可欠です。ぜひ大阪体育大学?大学院から能力の高い人材を常に輩出してください!
徳山:ありがとうございます。本学のスポーツマネジメントコースは教員が6人も在籍していて、スポーツマネジメントに直結する専門科目が設定されているなど、西日本では最も充実した体制だと自負しています。本学の役割を果たすため、我が国のスポーツ産業界に大学及び大学院から能力の高い人材を輩出すべく、質の高い教育の提供に今後も努めたいと思います。
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